寄稿文「舞鶴に想う」造形作家・伊藤五恵さん(宮崎市在住)

 「舞鶴」という地名を聞いて、あなたは何を思い描かれるでしょうか?戦争体験のある方ならば歴史的な役割を果たした地としての思い出があるでしょうし、戦後育ちの人であれば、さして思い浮かぶことはないかもしれません。「舞鶴」は、私にとって「煉瓦」が仲をを取り持つ「心のふるさと」となりました。そこで、「心のふるさと」になったきっかけを振り返ってみたいと思います。
 8年前にわたるアメリカ生活後、1年ほどオランダに政府留学生として滞在した時に初めて煉瓦造りの家に住み、煉瓦造りのアトリエで創作活動をし、煉瓦で造られた街並みに囲まれた生活を体験することができました。その煉瓦の持つ暖かさと歴史を感じながらの生活は、日本の典型的な振興都市に生まれ育った私に安らぎを感じさせるとても心地よいものでした。
 そして、その経験が礎となって、平成8年にヨーロッパ現代陶芸センターで煉瓦を使った初めての作品「HOME」として実を結ぶこととなりました。
 さて、美術素材としての煉瓦はとても魅力があります。普段は、建築材料の集合体として煉瓦を眺めていますが、一つひとつを手にとつてみると、実にいろいろな表情をしていることがわかります。角が欠けていたり、苔が生えていたり、まさに熟成されたワインのような味わいがあり、煉瓦のある街並みは、歴史の語り部であり、そこに住む人々の暖かさや時の流れを感じさせてくれます。
 帰国後、煉瓦に対する思い入れが薄まっていく中で、舞鶴にも煉瓦建造物が現存されているという話を耳にし、はじめてこの地を訪れました。そして、赤煉瓦の倉庫や建築物を目の当たりにした時は、まるでオランダの街に舞い戻ってきたような錯覚に陥り、ある種の安らぎを感じることができました。と同時に改めて「舞鶴で作品発表をしたい」という衝動に駆られました。
赤れんがフェスタ展示風景
 念願が叶って、3,500個という膨大な数の煉瓦を使い、ビルが立ち並ぶ都市のイメージを「時の本質」と題してインスタレーションを発表できたことは、とても嬉しいことでした。1週間という期間ではありましたが、多くの舞鶴市民の方々と会話を交わすことができて、煉瓦に対する思いがより深まったように思います。これからも歴史的文化遺産である「赤れんが」を守り育みながら、未来を見据えた積極的な「煉瓦施策」が推進され、舞鶴市がますます発展されますことを、心からお祈り申し上げます。
                                                  平成10年11月

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