赤煉瓦倶楽部・舞鶴

水野信太郎の赤煉瓦小ばなしVol.24
シリーズ「煉瓦と洋画」
4 シドニー・ポイチアの『野のユリ』 


 ことし1年間にわたって御届けした話題は、赤煉瓦が出演(?)する西洋の映画たちでした。その内容も今回が最終回です。煉瓦が出てくる映画の最後を飾る作品は、その名も清々しい『野のユリ』です。この作品は原題で申しますと、Lilies of the Field となります。しかも興味深いことに、このフィルムは、モノクロの映像で写し出された赤煉瓦たちでした。『野のユリ』の舞台は、アメリカ西部の荒野。この地にキリスト教の教会堂を建立しようというのです。そして教会堂建築を建てるのは、なんとヨーロッパから渡って来た4人の修道女たちだけというのが話しの発端です。しかも彼女たちは亡命してきた人々で、その中の一人を除いては満足に英語を話すこともできません。4人のなかでただ1人だけ何とか英語を使うことができるマザー・マリアの言葉に最初だまされて、この教会建設工事に引きづり込まれてしまう黒人青年がホーマー・スミスでした。そのホーマー役を見事に演じて1964年アカデミー主演男優賞に輝いたのがシドニー・ポイチア(アメリカ合衆国出身)です。なおマザー・マリアに扮するオーストリア出身のリリア・スカラは、私生活においてはドレスデン大学に学んだ女性建築家でした。しかし彼女にとっては建築の設計活動以上に、演劇の方がより魅力的な世界だったようです。
 さてシドニー・ポイチアは通りがかりの道端で4人の修道女たちに水をもらったことから、教会建設の手伝いに手を染めてしまいます。立ち去ろうとしますと、「この納屋の、この雨戸を直してくださいませんでしょうか」(中略)「ありがとうございます。まあまあ、やっぱり男の方は、力があってよろしゅうございますね。ついでに、向こうの棚も直していただけないでしょうか」「いいとも。直してやるけど、いくらくれますか」「オホホ、はいはい、お礼はいたします」(後略)(『淀川長治Radio名画劇場 続々・私の映画の部屋』ティービーエス・ブリタニカ、1976年、P-181より)などと上手に扱われて、やがて教会の煉瓦を積み上げる仕事に没頭してしまうのです。お金など最後はもう問題でなく、自分自身のために煉瓦を積むのです。これが清々しい野のユリそのものでした。映画のパンフレットには「すべての人々に共通する/すばらしい一瞬/一握りの善意と素朴な行為は/野に咲くユリの白さにも似て/香りゆたかに/さわやかに心を洗う」と記されています。
 肝心の煉瓦の積み方については画面からははっきりと断言できないのですが、どうやら煉瓦の側面ばかりを壁の表面に見せる長手積(ながてづみ)のように思われます。けれども、この映画の舞台はアメリカ合衆国アリゾナの砂漠のはずれなのですから、当然、アメリカ積の手法がごく自然に採用されそうなものだと思われるのですが。
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