赤煉瓦倶楽部・舞鶴

水野信太郎の赤煉瓦小ばなしVol.22
シリーズ「煉瓦と洋画」
2 チャップリンの『キッド』とペイ・デイ『給料日』


 前回はサスペンスと言う怖い映画でしたので、今回はグッと楽しい話題にしましょう。御存じ世界の喜劇王チャーリー・チャップリンです。彼の作品には煉瓦が、たびたび登場します。チャーリー少年の故郷ロンドンのケンニントン・ロードも煉瓦の街だったのです。
 御承知の通りチャップリンは、モノクロフィルムのサイレント時代に、短編映画から出発しています。そのチャップリンが、いま世界中の人々が知っているチャップリンの作風を確立するのは、1920年の頃でした。彼自身30歳前後のことです。貧しく弱い人々に対するチャップリン独自の愛情あふれるストーリーは『犬の生活』から、そして最初の長編映画は『キッド』でした。これらの作品群から、今日のチャップリン映画が始まります。
 愛らしい子役ジャック・クーガンの『キッド』にも煉瓦積の塀や住宅の壁がふんだんに登場します。捨て子を拾ってしまう街角も、あまり良好ではない煉瓦造の路地でした。主人公チャップリンの住まいも同様です。行き掛かりで喧嘩相手になってしまった乱暴者の兄貴が、煉瓦造の門をぶん殴って壊すシーンもあります。叩き壊される煉瓦の部分は、あらかじめ壊れやすくて柔らかな素材で特別に積まれているらしく、モノクロ映画ではありますが少し他の部分とは色の濃さが違って見えます。また喧嘩相手の頭をチャップリンが1丁の煉瓦で巧みに殴りますが、どうもその煉瓦もゴム製の小道具のようです。
 『キッド』の翌年の作品に、ペイ・デイ=支払日つまり『給料日』という煉瓦積み職人の映画があります。職人の一人にチャップリンが含まれていることは言うに及びません。『給料日』の撮影にも、ゴム製煉瓦が多用されました。また高い所にいる主人公めがけて地上から二人の男達が猛烈な勢いで煉瓦を投げ上げ、チャップリン一人に受けとらせる場面には仕掛けがあります。その秘密は、まず足場の上に煉瓦をきちんと積んでおきます。それをチャップリンが順に上から下へ向かってゆっくり落とすのを撮影します。映画ではそのフィルムを逆回しするのです。それにしても彼の演技は何と見事なことでしょう。
 『キッド』も『給料日』もアメリカ映画です。ですから煉瓦の積み方は、煉瓦端部の最も小さな面である小口(こぐち)ばかりが水平方向に並ぶ小口の段が、5段おきに現れます。その他の5段分は全て長手(ながて)ばかり。長手とは、煉瓦側面の細長い面です。
 なおチャップリンの作品に関しては淀川長治『淀川長治Radio名画劇場 私の映画の部屋』ティービーエス・ブリタニカ、1976年があります。全作品リストは淀川長治『私のチャップリン』PHP研究所、1977年の巻末に、チャップリンの年譜は相賀徹夫『国際版少年少女世界伝記全集 第25巻』小学館、昭和57年にあります。ゴム製煉瓦の出典は、東京ステーションギャラリー『東京駅と煉瓦』JR東日本、1988年です。さらに中野好夫訳『チャップリン自伝』新潮社、1966年が最も詳細なチャップリン伝となっています。
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