赤煉瓦倶楽部・舞鶴

水野信太郎の赤煉瓦こばなしVol.14
シリーズ「煉瓦と童話」
2 悲しいほど美しい話


 童話と言えばアンデルセンです。『人魚姫』などの悲しくも美しい童話を数多く創作した、世界一の童話作家と言ってもいいでしょう。ハンス・クリスチャン・アンデルセンは貧しい靴屋の子として、デンマークの中央部に位置するフュン島の中心的都市であるオーゼンセに生まれました。人魚姫の像があるコペンハーゲンは、デンマークの国土の中では最も東側にあるシェラン島のしかも東海岸にあります。
 さてアンデルセンが貧乏な靴屋の子供だと聞いて「小人のくつや」という童話を思い出しませんか。この童話は彼の作品ではありませんが、アンデルセンの雰囲気には生まれつき童話の世界があったのかも知れません。また彼は貧しい少年期に苦労したので、弱い者への愛情を失うことがなかったように思います。『人魚姫』だけでなく『みにくいあひるの子』などの作品にアンデルセンの優しさが感じられます。その上“あひるの子”は白鳥になれるのですから一種のサクセス・ストーリー(出世物語)とも読めませんか。今は恵まれない境遇にある人々に、明るい希望を与える事になるでしょう。実はアンデルセン自身の生涯も、後年どんどん良くなっていきました。
 さてアンデルセンの代表作のひとつに『絵のない絵本』という長編の作品があります。“大理石”や“赤い土べい”そして“壁にはめこんだこうしづくりの窓”など建築的表現が見られます。ところが残念なことに“煉瓦”は出てこないようです。
 そこで今回は『マッチ売りの少女』を例に拳げます。この童話はアンデルセンの母親の少女時代をモデルにしたと言われています。あまりの寒さに少女がマッチを擦ってみますが、2度目には壁が透けて“豪華で暖かい料理”が見えるのです。その壁とは恐らく煉瓦の壁でしょう。木造下見板などの軽快な壁ではなく、寒さに耐えられる煉瓦壁だと考えられます。厚く重い煉瓦の壁が、窓ガラスのように透けて見えるなどという発想が、いかにも夢のような童話だと私は感心するのです。そして悲しく美しい話だと思うのです。
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